ゴールドの資料を眺めていると、「9,534トン」「1日1,670万オンス」「建玉40万6,260枚」のような大きな数字が並びます。どれも金市場の大きさを表しているように見えますが、実は見ているものが違います。
ひとつは金庫にある現物の量、ひとつは決済で移転した量、もうひとつは未決済の先物契約です。数字が大きいだけで同じ方向を示すとは限りません。今日は、三つの統計をいったん別々の箱に置いてみましょう。
まずは三つの数字の「名前」を確認する
9,534トンは月末時点の金庫残高
LBMAによると、2026年7月末にロンドンの対象金庫で保管されていた金は9,534トンでした。これは前月比0.74%増で、月末価格による評価額は1.2兆ドルです。
1,670万オンスは1日当たりの清算量
LBMAの清算統計では、2026年6月の金の移転量は日次平均1,670万トロイオンスでした。こちらは月末に残っていた量ではなく、清算会員の帳簿や口座を通じて決済された純移転量です。
40万6,260枚は未決済の先物契約
CFTCのCOTでは、2026年8月18日時点のCOMEX金先物の総建玉が406,260枚でした。1枚は100トロイオンスですが、建玉は未決済契約の数です。現物が同じ量だけ金庫から動いた、という意味ではありません。
確認1 金庫残高は「ストック」として読む
ある一日の写真に近い
金庫残高は、月末という一時点を切り取った写真に近い数字です。LBMAの7月分は、7月31日の保有量を翌月に公表しています。日々の売買を足し上げた数字ではありません。
ロンドン全部でも、世界全部でもない
対象にはロンドンの商業金庫とイングランド銀行の金保有が含まれます。一方で、M25の外にある金、小規模金庫、個人や小売業者などの対象外保有は含まれません。「世界の金が9,534トンある」という統計ではない点は押さえておきたいところです。

確認2 清算量は「フロー」として読む
移転量と新規需要は同じではない
6月の清算量は前月比4.1%増えました。ただし、この増加だけで新しい金需要が4.1%増えたとは言えません。清算統計には、同じ会員の帳簿内での移転、別の清算会員への移転、物理的な移送などが含まれます。
金額の減少は価格の影響も受ける
同じ6月、移転量は増えた一方、移転価値は前月比3.8%減の709億ドルでした。オンス量とドル価値が反対方向に動くことはあります。金額には、その月の価格水準も入ってくるためです。
金庫残高で割って回転率を作らない
月末在庫と日次平均の清算量を並べると、つい「何日分か」を計算したくなります。けれども、片方は対象金庫の保有量、もう片方は清算会員間の純移転です。対象範囲と集計方法が違うので、単純な在庫回転率にはできません。数字の顔は似ていますが、住民票は別です。
確認3 建玉は「契約の残高」として読む
出来高とも現物在庫とも違う
建玉は、取引を終えずに残っている契約の数です。その日に何枚売買されたかを示す出来高とは違いますし、金庫の現物量とも違います。1枚100トロイオンスという契約単位を掛けても、直ちに受け渡される現物量にはなりません。
参加者区分は役割の違いも映す
8月18日時点では、非商業部門の買いが256,902枚、売りが34,713枚でした。ただし、商業部門には事業上の価格変動を抑えるヘッジも含まれます。買いと売りの大小だけで、参加者全体の強気・弱気を一本の線にまとめないほうが、落ち着いて読めます。
COTには公表までの時間差がある
COTが切り取るのは毎週火曜日時点です。資料を開いた日と、ポジションの基準日は同じではありません。急な相場変動があった週ほど、この数日の差を小さく見ないことが大切です。

三つを同じ表に置くなら列を増やす
時点、期間、単位を別々に書く
メモを作るなら、数字だけでなく「基準日」「集計期間」「単位」を添えます。金庫残高は7月末・トン、清算量は6月の日次平均・トロイオンス、建玉は8月18日時点・契約枚数です。これだけで、かなり混線しにくくなります。
最後に動詞を書く
もうひとつ効くのが、「保管されていた」「移転された」「未決済で残っていた」という動詞です。名詞と数字だけよりも、統計が何を数えたのかが見えやすくなります。
金相場を見る前の小さなチェックリスト
三つの問いを順番に置く
- これは現物の在庫、決済の流れ、契約の残高のどれか
- 一時点の数字か、一定期間の平均や合計か
- 対象範囲と公表までの時間差はどこまでか
三つを分けてから、金利、ドル、ETF、現物需要など別の材料と照らします。ひとつの大きな数字に相場の理由を全部背負わせないことが、見落としを減らす近道になりそうです。
まとめ
ロンドンの9,534トンは月末の現物ストック、1日1,670万オンスは清算フロー、COMEXの406,260枚は先物契約の残高です。単位をそろえる前に、何を、いつ、どの範囲で数えたのかをそろえる。そこから始めると、ゴールドの大きな数字に振り回されにくくなります。
参考:LBMA「London Vault Data」、LBMA「Clearing Data」、CFTC「Commitments of Traders Report – CMX (Futures Only)」(いずれも2026年8月25日閲覧)


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