相場の現在地

7月の貿易赤字6,345億円、名目金額と実質輸出入を混ぜない3つの確認

2026年7月の貿易統計では、輸出も輸入も前年より大きく増え、差し引きは6,345億円の赤字になりました。数字だけを見ると、「輸入の伸びが強いから円安なのかな」と考えたくなるかもしれません。

でも、ここには少し立ち止まりたいところがあります。通関時の金額と、価格の影響を調整した実質輸出入は、同じものを測っているわけではありません。今日は三つの確認に分けて、ドル円へつなぐ前の足場を整えてみましょう。

7月の貿易赤字は、輸出と輸入がともに増えた中で生まれました

輸出は11兆5,117億98百万円、輸入は12兆1,462億98百万円でした

財務省・税関が8月20日に公表した2026年7月分の速報では、輸出は前年同月比23.2%増、輸入は27.8%増でした。差し引きは6,345億円の赤字です。

赤字という言葉だけが目に入りやすいのですが、今回は輸出が減って赤字になったのではありません。輸出も増え、その上で輸入額のほうが大きかった、という形です。

前年同月比の大きさを、数量の伸びだけだと思わないようにします

通関ベースの金額には、品物の数量だけでなく、輸出入価格、為替、前年の比較水準も入ります。円建ての輸入価格が上がれば、同じ数量でも輸入額は膨らみます。反対に、数量が増えても価格が下がれば、金額の伸びは小さく見えることがあります。

まずは「23.2%増」「27.8%増」を、そのまま荷物の量の増加率へ置き換えないことが一つ目の確認です。

価格札の付いた貨物と価格要因を除いた貨物を別の測定台で比べる図解
通関金額と、価格変動を調整した実質系列は、役割の違う二つの観測窓です。

1つ目の確認は、貿易収支が名目金額の差だということです

赤字は、輸入額から輸出額を引いた結果です

貿易収支は、一定期間の輸出額と輸入額の差です。7月は輸入額が輸出額を6,345億円上回りました。ただし、この差額だけでは、国内企業の生産量や海外需要の強さをきれいに分けられません。

原油などの輸入価格が動いた月と、機械などの輸出数量が動いた月では、同じ赤字でも背景が違います。赤字の幅を見たら、輸出と輸入のどちらが動いたのか、その金額には価格の影響がどの程度ありそうかを順に確かめたいところです。

速報値は、あとから改訂されることがあります

今回の数字は速報です。財務省の報道発表資料には速報、確報、確々報が分けて掲載されています。最初の発表を現在地として使いつつ、後日の改訂で数字が変わりうることも忘れないようにします。

2つ目の確認は、実質輸出入で価格の影響を少し外してみることです

日銀の実質系列は、通関金額を輸出入物価指数で調整します

日本銀行の解説によると、実質輸出入は財務省の名目輸出入金額を輸出入物価指数で割って作られます。さらに季節調整を行い、2020年平均を100とする指数にしています。

これは「物価の動きを取り除いたあと、輸出入の量感がどう動いたか」を考えるための別の窓です。通関金額を否定するものではなく、見ている角度が違います。

名目輸出23.2%増と、実質輸出0.7%増は直接比べません

日本銀行が8月21日に掲載した図表では、2026年7月の実質輸出計は季節調整済み前月比0.7%増でした。データでは、実質輸出が6月の119.35から7月の120.17へ、実質輸入が114.87から115.03へ動いています。財務省の23.2%増は名目金額の前年同月比であり、対象も調整方法も違います。

数字の差が大きく見えても、どちらかが間違っているわけではありません。名目か実質か、前年同月比か前月比か。この二つをそろえてから読むと、見出しの勢いに引っ張られにくくなります。

港から複数地域へ分かれる航路と異なる種類の貨物を並べた図解
輸出全体が増えた月でも、行き先や品目ごとの動きは同じではありません。

3つ目の確認は、地域別と財別のばらつきです

中国向けが増えても、すべての地域が同じ方向ではありません

7月の実質輸出を前月比で見ると、米国向けは0.5%増、中国向けは7.0%増でした。一方、EU向けは2.2%減、NIEs・ASEAN等向けは1.8%減です。合計がプラスでも、行き先ごとの景色はそろっていません。

特定の国向けの増加だけで、日本の輸出全体が強いと決めるのは少し早そうです。主要地域の比重と、複数地域の広がりを一緒に見ておくと、全体像が落ち着いて見えてきます。

資本財が増えても、自動車関連は減りました

財別では、資本財が前月比12.0%増、中間財が6.0%増でした。その一方で、自動車関連は6.8%減、情報関連は0.9%減です。設備投資に関わる品目と、自動車や電子関連では動きが分かれました。

「輸出が増えた」という一行を読んだら、どの地域の、どの品目が支えたのかまで一段だけ掘ってみます。そこまで見ると、一つの材料を景気全体へ広げすぎずに済みます。

ドル円へつなぐときは、貿易収支の外側も残しておきます

貿易赤字は、国際収支全体の赤字と同じではありません

貿易統計は、モノの輸出入を通関ベースで集計したものです。海外投資から得る利子や配当、旅行やデジタルサービスなどは、この差額だけでは分かりません。

円の需給を考えるなら、貿易だけでなく、サービス収支や第一次所得収支、企業の為替ヘッジも関わります。貿易赤字の拡大を、そのまま円売りの大きさへ置き換えないほうが自然です。

海外金利や原油価格、市場の織り込みも同時に動きます

ドル円は、日米金利、原油を含む輸入価格、株式市場の雰囲気、すでに市場が予想していた内容など、複数の材料を受け取ります。貿易統計が重要でも、それだけで次の方向が決まるわけではありません。

数字が公表された直後ほど、「赤字だから円安」と一本線を引かず、予想との差や他の材料との重なりを確認してみてください。

今日から使える三つの確認

見出しを読んだら、この順番で問いかけます

  1. 名目金額の差か。 輸出額、輸入額、差引を分け、価格や為替の影響を残します。
  2. 実質系列はどうか。 名目と実質、前年同月比と前月比を混ぜずに確認します。
  3. 中身は広がっているか。 地域別・財別の増減と、貿易収支の外側にある材料も見ます。

この三段階があれば、赤字額の大きさだけで慌てずに済みます。統計は答えを一つに絞る道具ではなく、見落としていた条件に気づくための地図として使うくらいがちょうどよさそうです。

まとめ

2026年7月は、輸出と輸入がともに前年より増え、差し引き6,345億円の貿易赤字でした。ただし、名目金額の伸びには価格や為替の影響が入り、日銀の実質輸出は別の方法と時間軸で作られています。

名目と実質を分け、地域と品目のばらつきを見て、最後にドル円を動かすほかの材料を残す。この順番なら、見出しを読み飛ばさず、かといって一つの数字に縛られすぎずに済みます。

出典

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