金の需給表を開くと、2026年4〜6月期の総供給は1,269トンとあります。数字だけを見ると「前年とほぼ同じ」で話が終わりそうですが、内訳では鉱山生産が増え、リサイクルが減り、生産者ヘッジはマイナスでした。
三つはすべて供給の欄に並んでいても、同じ場所から、同じ速さで出てくる金ではありません。今日は、金相場の答えを急ぐ前に、供給の入口を三つに分けてみましょう。
まずは総供給1,269トンの内訳を見る
鉱山生産は966トンまで増えた
World Gold Councilによると、2026年4〜6月期の鉱山生産は965.6トンでした。前年同期比では2%増え、4〜6月期としては同統計の最高です。2026年上期でも1,867トンと、前年同期の1,808トンを3%上回りました。
リサイクル金は326トンへ減った
同じ四半期のリサイクル金は326.1トンです。前年同期比で6%減、1〜3月期との比較では13%減でした。鉱山生産が増えた一方で、すでに地上にあった金が市場へ戻る量は減っています。
生産者ヘッジはマイナス23トンだった
生産者ヘッジはマイナス22.8トンでした。これは新しい鉱山が「マイナスの金」を掘ったわけではありません。鉱山会社の先渡しやオプションなどの残高が縮小し、その四半期に市場へ出る量を減らす方向に働いた、という符号です。
確認1 鉱山生産はゆっくり動く新規供給
価格が上がってもすぐ増産できない
鉱山生産は、地下や地表から新しく取り出された金です。ただし、探鉱、許認可、建設、操業開始までには長い時間がかかります。World Gold Councilも、発見から生産まで数十年かかることがあり、価格への反応は速くないと説明しています。
四半期の増減には季節性も混ざる
4〜6月期の鉱山生産は1〜3月期から7%増えましたが、資料では主に季節要因とされています。前年同期比の2%増と前期比の7%増は、同じ増加率ではありません。比較する相手をそろえないと、増産の勢いを大きく見積もりやすくなります。

確認2 リサイクル金は地上在庫から戻る供給
鉱山を通らず、既存の金が戻ってくる
リサイクル金は、古い宝飾品やスクラップなど、すでに地上にある金が回収・精製されて市場へ戻る部分です。新たに採掘された量ではありません。USGSも鉱山生産とスクラップ再生を別の統計として示しています。
前年の高値より直前の値動きが効くこともある
2026年4〜6月期の平均金価格は前年同期より高かった一方、1〜3月期からは下がりました。World Gold Councilは、短期のリサイクル行動では前年との価格差より、直前の四半期との変化が重要になりやすいと説明しています。価格が高い、という一言だけでは326トンへの減少を説明しきれません。
地域や交換取引の扱いも確認する
古い宝飾品を現金化する場合と、新しい宝飾品へ交換する場合では統計上の扱いが違います。地域ごとの精製能力や商慣行も影響します。リサイクル減少を「世界中の家計が売らなくなった」と一本化しないほうが安全です。
確認3 生産者ヘッジは供給の時期をずらす
鉱山会社が価格変動を管理する仕組み
生産者ヘッジは、鉱山会社が将来生産する金の価格変動を抑えるための先渡し、金貸借、オプションなどが現物市場へ与える純影響です。事業費や返済計画を安定させるために使われることがあります。
マイナスは投機家の売り越しではない
2026年4〜6月期のマイナス22.8トンは、ヘッジ残高を閉じるデヘッジが進み、市場へ前倒しで出ていた分が減ったことを表します。先物市場の投機家が23トン売った、という統計ではありません。COTの買い越しや総建玉とも別の数字です。
長い目では金そのものを増やさない
ヘッジは販売時期を前後させますが、地中の金を新しく作る仕組みではありません。World Gold Councilの定義でも、長期では金供給の純増を生まないとされています。四半期の需給表では効いても、鉱山生産と同じ「新規供給」ではない点が大切です。

総供給が横ばいでも中身は動いている
増加と減少が打ち消し合った
総供給は前年同期の1,268.6トンから1,268.9トンへ、ほぼ横ばいでした。しかし中では、鉱山生産が約18トン増え、リサイクルが約21トン減り、生産者ヘッジのマイナス幅は前年同期より少し縮んでいます。合計だけでは、この組み合わせが見えません。
供給統計だけで価格の方向は決まらない
金価格には、ドル、実質金利、ETF、中央銀行、宝飾品、先物ポジションなど別の材料も重なります。供給1,269トンは大切な現在地ですが、それだけで上昇や下落を決める信号ではありません。
資料を開いたら三つの列を足す
出どころ、時間軸、符号を書く
- 出どころは、新規採掘、地上在庫の再生、販売時期の調整のどれか
- 時間軸は、四半期、前年同期比、前期比のどれか
- マイナス値は、物理的な損失なのか、供給を減らす会計上の符号なのか
この三列を添えるだけで、同じ「供給」という見出しの中でも数字の役割が見えやすくなります。足し算の前に、材料の身分証を確認するイメージです。
まとめ
2026年4〜6月期の金供給1,269トンは、鉱山生産966トン、リサイクル326トン、生産者ヘッジのマイナス23トンから成ります。鉱山はゆっくり増える新規供給、リサイクルは地上在庫の戻り、生産者ヘッジは供給時期の調整です。
総供給が横ばいでも、三つの入口は別々に動いていました。金相場を見るときは、合計の大きさより先に、どこから来た金なのかを分けておくと、数字に振り回されにくくなります。
参考:World Gold Council「Gold Demand Trends: Q2 2026 – Supply」、World Gold Council「Gold Demand & Supply by Country」、World Gold Council「Notes and Definitions」、World Gold Council「Gold Mining」、USGS「Mineral Commodity Summaries 2026」(いずれも2026年8月31日閲覧)


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