ゴールドのアノマリーを分析してみました。
アノマリーは役に立たないよとか言う人もいますが、知っている事は大事です。
1. 分析手法としては計量分析
曜日や月ごとのリターンの偏りなど、過去の価格データから統計的なパターンを見つけ出す手法は、計量分析または統計分析の範疇に入ります。
これは、数学や統計学のモデルを使って市場を分析し、投資戦略を立てるアプローチ全般を指します。
2. 学問分野としては行動ファイナンス
なぜ合理的なはずの市場に、このような経験則的な偏り(アノマリー)が生まれるのか?その背景を研究する学問が行動ファイナンスです。
これは、人間の心理的なバイアス(思い込みや感情)が投資判断に影響を与え、結果として市場に非合理的な値動きを生み出す、という考え方に基づいています。
例えば、「月曜日は週末の悪いニュースが出やすくて気分が落ち込むから売られやすい」といった心理的な要因が、アノマリーの原因の一つだと考えられています。
3. 取引戦略としては統計的裁定取引
これらのアノマリーという統計的な優位性を利用して、利益を積み重ねようとする取引戦略は、「統計的裁定取引」、略してスタット・アーブと呼ばれることがあります。
完全にリスクがない伝統的な裁定取引とは異なり、あくまで「長期的・統計的に見て有利な状況」に賭けるトレード手法です。
今回は、計量分析・統計分析をお伝えします。
2004年からのGLD価格データを基に算出しています。
※データー元
2004年からの月ごとの平均リターン
月が最もリターンが高い月であり、次いで4月、8月が強い傾向にあります。
一方で、5月、6月、9月は平均リターンがマイナスとなっており、下落しやすい傾向が見られます。
「シーズナル・ゴールド」戦略
月ごとのパフォーマンスの偏りを利用して、トレードの方向性に強弱をつける戦略です。
強気な月(1月、4月、8月など): これらの月では、押し目買いを中心に、積極的に買いポジションを狙う戦略を取ります。
弱気な月(5月、6月、9月など): これらの月では、買いポジションに慎重になるか、戻り売りの戦略を中心に、短期的な下落を狙うことを検討します。
2004年からの曜日ごとの日次リターン
月曜日は平均リターンがわずかにマイナスです。
金曜日の平均リターンが突出して高いという非常に興味深い結果が出ています。
水曜日と木曜日も比較的堅調なリターンを示しています。
ウィークエンド・ゴールド戦略
金曜日のリターンが高く、月曜日のリターンが弱いという傾向を利用する戦略です。
買い戦略
木曜の終わりか金曜の寄り付きで買いポジションを持ち、リターンが伸びやすい金曜日の終わりまでに手仕舞うことを検討します。
売り戦略(上級者向け)
逆に、金曜の引けで売りポジションを持ち、週明け月曜の軟調な動きを狙って決済するという逆張りのアイデアも考えられます。
週末にポジションを持ち越すリスクは伴います。
将来の利益を保証するものではありません。
実際の取引では、これらの傾向を一つのエッジとして捉え、これまでお使いのテクニカル分析やファンダメンタルズ分析と組み合わせて、ご自身の判断でご活用いただくことが重要です。
また、どのような取引でも損切りルールの徹底は不可欠です。
年ごとの月別 平均リターン(2004年〜2025年)
各年の月ごとの平均リターン(日次)を示したヒートマップです。
(2025年は7月まで)
このデータからわかること
「1月は強い」「9月は弱い」といった全体の季節性も、年によってはその逆の動きを見せることがあります。
例えば、2008年の9月は非常に強い上昇を示しました(金融危機の時期と重なります)。
特定の年に非常に強い、あるいは弱い月が集中していることがわかります。
例えば、2013年は多くの月でリターンがマイナスとなり、年間を通じて下落トレンドだったことが読み取れます。
これらの年ごとのパターンと、その年の大きな経済イベント(金融緩和、地政学的リスクなど)を照らし合わせることで、さらに深い洞察が得られるでしょう。
年ごとの曜日別リターン(2004年〜2025年)
こちらのヒートマップは、各年の曜日ごとの平均リターン(日次)を示しています。
緑が濃いほどプラスのリターン、赤が濃いほどマイナスのリターンが大きかったことを意味します。
このデータからわかること
以前の分析で見られた「金曜日は強い」という全体の傾向も、例えば2012年や2020年のように、年によっては当てはまらないことがあるのが一目瞭然です。
逆に、2010年や2016年の金曜日は非常に強いパフォーマンスを示しています。
年ごとに「勝ちやすい曜日」「負けやすい曜日」のパターンが変化していることが、トレーディングのヒントになるかもしれません。
月の前半と後半、どちらが有利?「月末月初効果」の分析
多くの金融市場で観測される「月末月初に価格が上昇しやすい」というアノマリーが、金市場にも存在するのかを検証しました。
日々のリターンを、その日が月の何日目かで集計し、平均リターンを算出しました。
分析から見えてきたこと:
月の最終営業日から月初4営業日にかけて、リターンがプラスになりやすいという傾向が見られます。
これは、機関投資家の資金フローなどが影響していると考えられています。
逆に、月の中盤(特に10日〜20日あたり)は、リターンが軟調になる傾向が見られます。
ゴールド取引のヒント
ゴールドで月間で1万3000ピップスを獲得した実績がある私が見ている戦略の一部を紹介します。
金/銀レシオ(GSR)を利用したセミスイングトレード
金価格を銀価格で割った「金/銀レシオ(GSR)」は、歴史的に一定のレンジで動く傾向があります。
このレシオが歴史的な上限に近づけば「金が銀に対して割高」、下限に近づけば「割安」と判断します。
買われすぎ、売られすぎを的確に判断しやすいMFIも補助で使用します。
数値は非公開です。(画像は数値が違います)
戦略
GSRが高すぎる場合:金を売るポジションを取ります。
レシオが平均に回帰する過程で利益を狙います。(金の下落幅 > 銀の下落幅、または 銀の上昇幅 > 金の上昇幅)
GSRが低すぎる場合:金を買うポジションを取ります。
なぜ有効か?
金と銀は同じ貴金属として似た値動きをしますが、銀は工業用需要の割合が大きいため、景気動向により敏感に反応します。
この「性格の違い」が、レシオの歪みを生み出し、トレーディングのチャンスとなります。
金/銅レシオ(CGレシオ)で世界経済の体温を読む
「ドクター・カッパー」とも呼ばれる銅は、世界経済の先行指標とされます。
金価格を銅価格で割った「金/銅レシオ」は、市場のリスクセンチメントを測る指標として利用できます。
戦略
レシオが急上昇する場合
銅価格が下落し、金価格が上昇していることを意味します。
これは、市場が景気後退を懸念し、リスク回避姿勢を強めているサインです。
この流れに乗り、金の買いを検討します。
レシオが急落する場合
銅価格が上昇し、金価格が下落していることを意味します。
市場が楽観的になっているサインであり、金の売りを検討します。
なぜ有効か?
このレシオを見ることで、「経済が強いから金が売られているのか」「リスク回避で金が買われているのか」といった、金価格の背景にある市場心理をより深く理解し、取引の精度を高めることができます。
単純にレシオを見るわけではありません。
複合的に分析する一つの指標です。
マクロ分析とタイミングの選定がトレーダーの資質になります。
金価格の羅針盤
「実質金利」が金価格の羅針盤です。
まず、基本を確認します。
実質金利 = 名目金利 - 期待インフレ率
これは、銀行預金や債券などの資産から、インフレによる価値の目減りを差し引いた「真の収益率」を意味します。
金は、ご存知の通り金利も配当も生みません。
実質金利が上昇する局面
債権などの金利を生む資産の魅力が高まります。
金を保有する「機会費用(持っていれば得られたはずの金利)」が大きくなるため、金は売られやすくなります(価格下落圧力)。
実質金利が低下・マイナスになる局面
債券を持っていても、インフレで実質的な価値が目減りしてしまいます。
金利を生まない金の「弱み」が薄れ、価値の保存手段としての魅力が輝きを増し、金は買われやすくなります(価格上昇圧力)。
この金と実質金利の逆相関は、金融市場で最も信頼性の高い関係の一つです。
「実質金利の代役」を利用した先行指標トレード
では、この「実質金利」をどうやって取引に活かすか。最も手軽で強力な方法は、米国物価連動国債(TIPS)のETFを監視することです。
監視対象: iShares TIPS Bond ETF
見方
このTIPというETFの価格は、実質金利と逆の動きをします。(実質金利が低下するとTIP価格は上昇)
つまり、TIPの価格と金の価格は、基本的に同じ方向に動く(相関する)はずです。
この関係性を利用して、市場の「ズレ」や「先行きのヒント」を見つけ出し、取引に活かします。
具体的な戦略:「ダイバージェンス(乖離)」を狙う
2つのチャート(GLDとTIP)を並べて表示し、両者の動きの「ズレ」を探します。
金の買いシグナル
状況
TIPの価格が力強く上昇し、直近の高値を更新したとします。
これは「実質金利が低下しており、金にとって追い風が吹いている」ことを示唆します。
チャンス
しかし、この時まだ金(GLD)の価格が上昇に乗り遅れて、高値を更新できていない場合があります。
戦略
この「ズレ」は、金がやがてTIPの動きに追随して上昇する可能性を示唆しています。
先行するTIPの動きを確認してから、遅れている金を「買う」という戦略です。
金売りシグナル
状況
TIPの価格が下落し、直近の安値を更新したとします。
これは「実質金利が上昇しており、金には逆風が吹いている」サインです。
チャンス
しかし、この時まだ金(GLD)の価格が高値圏で粘っている場合があります。
戦略
いずれ金も実質金利の上昇を織り込んで下落する可能性が高いと判断し、先行して下落するTIPの動きを根拠に、粘っている金を「売る」戦略です。
以前に私の金のセミナーを聞いた人もいるとは思いますが、そのほとんどの人が使えなかったと思います。
自分自身の頭で戦略を立てれれば、十分なお釣りがくる内容です。
セミナーは無料ですが。
知ったことに対して、そこに答えはありますが答えにたどり着く道のりは別のものです。
今回書いたのは、ほんの触りであって答えは自身で考えて出していきましょう。
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